タンゴのスペイン語辞典 Diccionario Tanguero


Y

Yacaré (ジャカレー)

 コリエンテス州出身の競馬の騎手 Elías Antúnes (エリーアス・アントゥーネス) (1907 - 57) のあだ名。 アンヘル・ダゴスティーノ Ángel D'Agostino 楽団のバンドネオン奏者だった アルフレード・アタディーア Alfredo Attadía (1914 - 82) 作曲のタンゴ (1941年) «El Yacaré» を捧げられている。ジャカレー は、コリエンテス地方にも住むワニの1種(より小型のクロコダイル)。


Yaguarón (ジャグワローン)

 先住民グワラニー人伝承の、おそろしい肉食獣。グワラニー語 jaguarun (ジャグワルーン=黒いジャガー) を、スペイン語風にしたことば。この名前の町が、パラグアイの首都アスンシオーンの近くにある。また、ウルグアイとブラジルの国境になっている川もこの名前――ポルトガル語では Jaguarão (ジャグワラォン)
 1910年代のバンドネオン奏者 シプリアーノ・ナバ Cipriano Nava (1888 - 1963) 作曲のタンゴ «El Yaguarón» は、川の名前と考えるのが妥当なようだが、この川はまったくタンゴと無関係の地域にあるので「???」……わたしは、怪物のような風貌の男のあだ名だったのだろうと思う。


Yapeyú (ジャペジュー)

 1910年代に第一線のタンゴ・グループに入って活動していたフルート奏者 ホセ・フステール José Dionisio Fuster (¿? - 1928) 作曲のタンゴの題名。これは、アルゼンチンの国民的英雄、サンマルティーン将軍 General San Martín の生まれた町(コリエンテス州)の名前。ブエノスアイレスでは、通りや映画館の名前などにもなっている。1910年がアルゼンチン革命(スペインに対する)百周年で、それを記念したタンゴもいろいろあったようだ。「解放者 Libertador 」サンマルティーン将軍の故郷を題名にしたこの曲も、これに近い時期の作品と思われる。


yerba (ジェルバ)

 一般的に「草」のことだが、アルゼンチン=ウルグアイなどでは、yerba mate という正しい呼びかたを省略して、「マテ茶の葉」をこう呼ぶ。この葉は乾燥させて、粉のようにくだいてあり、紙袋につめて売られている。これをマテ(器)に入れ、お湯を注いで、bombilla (ボンビージャ) と呼ぶ金属の細い管で吸って飲む。


---Yo tomo el mate todos los días. Cuando viajo, siempre llevo paquetes de yerba.

「わたしは毎日マテ茶を飲みます。旅行するときは、いつもマテ茶の葉の袋をもっていきます」


Cuando no tengas ni fe,
ni yerba de ayer
secándose al sol . . .

あなたが信じる心もなくし、
また使おうと陽に干しておいた
きのうのマテ茶の葉もなくなってしまったとき……

――タンゴ «Yira . . . yira . . .»(ジーラ・ジーラ)1929年 作詞:Enrique Santos Discépolo
*イグナーシオ・コルシーニ Ignacio Corsini 歌。ここをクリック


yigoló (ジゴロー)

 年上の女性に食べさせてもらっている若い男性。意味が広がって、職業的な「ヒモ」。アルゼンチン=ウルグアイでは、むしろ後者の意味に使うことのほうが多い。アルゴー (フランスの隠語) をそのまま借用。gigoló と書かれることもある(フランス語ではアクセント記号は付かないが)。

Che, madam, que parlas en francés
y tirás ventolina a dos manos,
que escabiás copetín bien frappé
y tenés el yigoló bien bacán . . .

もしもし マダム、あなたはフランス語をしゃべり
両手でお金をばらまく
キリキリに冷えたグラスをあおり
まったくご立派な色男をお持ちだ……

――タンゴ «Muñeca brava»(おそろしいお人形さん)1929年 作詞:Enrique Cadícamo 改編: ¿Carlos Gardel?
*カルロス・ガルデール Carlos Gardel 歌。ここをクリック


yirar (ジラール)

 最古の ルンファルド 文献での定義は、単に「歩く」。一般に「(とくに行き先はなく)ぶらぶら歩きまわる」という意味で使われる。語源はイタリア語 “girare” で、「まわす、まわる、歩きまわる」という意味。
 なお、このことばは、娼婦が街頭で客を引く行為に関して使われることもあった。また犯罪者の面通しもこう呼ばれたらしい。ただし、このような意味をもってタンゴの歌詞に使われることは絶対になかった。公衆の前で(しかも、大きな声で!)うたうためのものだから、一般的に不道徳なことや、品位のない表現は、許されないのである。


---¿Qué vas a hacer ahora?
---No sé . . . voy a yirar por ahí.

「これから何をするの?」
「どうしようかな?……そのへんを ぶらついてみよう」


¡Verás que todo es mentira,
verás que nada es amor,
que al mundo nada le importa . . .
¡Yira! . . . ¡Yira! . .

あなたは知るだろう すべてが嘘だということを
あなたにもわかるだろう 愛なんてものはないことを
世間はなにがあっても知らん顔
まわれ!……歩きまわれ!……

――タンゴ «Yira . . . yira . . .»(ジーラ・ジーラ)1929年 作詞:Enrique Santos Discépolo
*イグナーシオ・コルシーニ Ignacio Corsini 歌。ここをクリック


yiro (ジーロ)

 街娼(文法上は男性名詞にあつかう)。ほんとうの意味のルンファルド(警察・犯罪関係者の用語)で、タンゴの歌詞に出てはいけないことばですが、参考のため、ここに記しておきます。


yorihama (ジョリハーマ)

 日本人のこと。このことばの発明者であるバンドネオン奏者、フーリオ・アウマーダ Julio Ahumada (1916 - 84) の言によれば、amarillo (アマリージョ=黄色)の逆さことば(vesrre)で、しかも日本語のひびきをもったことばである。発明者以外に、この言葉を使った人はいない。
 アウマーダ と、彼の不肖の弟子だった 米山 義則 Carlitos Yoneyama への、わたしの変わらぬ愛と友情と尊敬のしるしとして、このだれも知らないことばを、ここに記す。


---Che, ¿qué hacés, yorihama?
¡Dejate de joder!

おい、何やってるんだ?、日本人
いいかげんにしろよ!


yoruga (ジョルーガ)

 ウルグアイ人。uruguayo の逆さことば(vesrre)。


yoyega (ジョジェーガ)

 スペイン移民。gallego の逆さことば(vesrre)。


yugar (ジュガール)

 働く(比ゆ的にオフィスづとめをいうこともあるが、一般に肉体労働を指す)。下記のことばを動詞にしたもの。


Era una paica papusa
que yugaba de quemera,
hija de una curandera,
mechera de profesión.

彼女はすごい美人の女の子だった、
ゴミ焼き場から金目のものをあさる きつい仕事をしていた
彼女のおふくろは まじないで病気を治す女、
じつは本職は万引きだった。

――タンゴ «El ciruja»(エル・シルーハ=ゴミ捨て場あさりの男)1926年 作詞:Francisco Alberto Marino
*カルロス・ガルデール Carlos Gardel 歌。ここをクリック


yugo (ジューゴ)

 仕事、労働。「食べるために働く、汗水たらして働く、いやいやながら働く」といった、つらいニュアンスをともなっていることが多い。もとの意味は、牛の「首かせ」(2頭の牛の首をつないで、いっしょに車を曳かせる)。
 一般的ではなかったと思うが、同じ意味のイタリア語 giogo (ジョーゴ) を使う人もあった。
 参照 ⇒ carreta


yunque (ジュンケ)

 ふつうのスペイン語で、鍛冶屋の鉄床(かなとこ)のこと。これを筆名にしたルンファルド詩人については ⇒ Álvaro Yunque


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